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先日安倍首相が施政方針演説で同一労働同一賃金の実現に踏み込むと発言した。同一労働だと例えばパートも正社員も労働時間以外は完全に平等ということなら、同じ仕事をしているひとに同じ時間賃金を支払うのは当たり前に思えるが、同一労働とはどういうことなのかその意味が問題なような気がしている。
私が思うに、安倍首相は、日本の労働者の身分差別(正社員・非正規社員)や年齢差別(新卒一括採用・定年制)や国籍差別(本社採用日本人・現地採用外国人)などに対する国際的指摘に対処して行こうということで同一労働同一賃金の実現を目指すと発言したと思われる。とすれば差別撤廃と抱き合わせで同一労働同一賃金を実現しないといけないことになる。
大企業の経営者や労働組合もその問題に気づいていて、自分たち経営者(例えば経団連)の都合で使いやすい(サービス残業や長時間労働を厭わない)正社員と自分たちの既得権(転勤や配置転換にともなう精神的苦痛の代償と称する高い給与)を手放したくない労働組合(例えば連合)・正社員が正規と非正規では労働の価値が違うと言って、同一労働同一賃金ではなく同一価値労働同一賃金を提唱しているようである。
私は、差別撤廃と抱き合わせで同一価値労働同一賃金というのが多分安倍首相の言う同一労働同一賃金の実現の行き着く先ではないかという気がしている。そして今後経済・労働関係の法制がその方向に見直されて行くことになると思われる。同一労働とはどういうことなのかその意味を考えて行くとそうなるような気がしている。
単純に考えて、例えば同じ時間で期待成果が同じ業務に従事したとして一人は120%のアウトプットをし、もう一人は80%のアウトプットをしたとする。同時間従事したのだからと二人に同一賃金を支払うのが同一労働同一賃金ということなのか、あるいは例えば120%アウトプットのひとには基準賃金の10割あるいは2割増、もう一人には8割支払うのが同一労働同一賃金なのかという疑問が湧くわけである。
前者のケースではアウトプットの少ない(能力の低い)人は降格あるいは辞めてもらうことになる。そして自分の能力にあった仕事に移って行く。120%のひとは昇進する機会があるかも知れない。後者のケースではアウトプット(能力)に応じた賃金が支払われる。120%のひとは昇進の機会があるかも知れない。80%の人は降格もあるかも知れない。それが嫌なら辞めて新しい仕事に移ることになるかも知れない。そういうことでないと同一労働同一賃金が実現されて行かない。
労働生産性を上げないと最低賃金アップなどによる高い賃金は支払えないのだから、就労と賃金の関係も労働生産性と切り離せない。降格・配転や解雇・転職も選択肢になって来る。前述例で両者の違いは能力の評価を賃金に反映させるかさせないかの違いである。その見方では後者は同一価値労働同一賃金のようなものに思える。実際は労働慣行の変革で両者ないまぜのように運用されるようになると思われるが、結局は同一価値労働同一賃金と言ってよいかたちになってしまうのだと思われる。
差別撤廃のもとで同一労働同一賃金あるいは同一価値労働同一賃金を実現していくということだと、同一労働あるいは同一価値労働という労働も何を以って同一な労働というのかということになる。そして同一な労働とみなされる労働が期待成果ごとに層別される(例えば精神的苦痛ありとなしでそれぞれ幾段階にも層別され、層内では時間当り給与は平等が建前となる)。最低層は最低賃金制度の最低時給、その上の層は最低時給より高い時給というように順次細かくランク付けされて行く。時給労働対象でない労働者も細かく責任と権限や雇用形態などで層別され最低月給や最低年俸から順次ランクで月給や年俸が高くなる。層間の移動(昇進・降格)や配転は成果の評価をもとに随時行われ、その結果に不満なら転職も選択肢となる。飼い殺しを避けるには容易に転職可能な社会でないと困ることになって行くわけである。解雇されるケースも増えるかも知れない。
差別撤廃の同一(価値)労働同一賃金が実現されるとすれば、それは業務の細かい階層化と労働市場の流動化が実現された社会ではないかと思われる。労働者は厳しい評価のなかで働くことになり、賃金格差も多様になるのではないかと思われる。また労働市場の流動化すなわち退職・転職が増えるのと同様、労働生産性を上げられなければ企業も廃業や転業(買収されるなども含む)をすることになるし、ダメな経営者は退出をするしかない。それに合わせて高効率な新事業の起業が活発になるかも知れない。そのような社会になるということが安倍首相の同一労働同一賃金の実現という発言には込められていると思われる。
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