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「もっと言ってはいけない」(橘玲・新潮新書)という本を読んだ。以前読んだ「言ってはいけない」(橘玲・新潮新書)の続きのような本である。私が両著を読んだ印象では、知能や性格はかなり遺伝の影響があり、そうだとすれば教育の仕方が悪いとか育て方が悪いという理由で能力が低かったり性格が悪るかったりする人間になってしまうと言うことに疑問があるということである。そういうことから教育支援の政策や仕方を再考した方がよいし、子どもの出来を子育てのせいにするあるいは子どもの不成績や悪行を親の責任にすることも的外れの可能性があるということである。
その他で私が今回新著を読んで印象に残ったのは、知能に関する統計的事実や行動遺伝学的知見についてである。例えばIQについてだが、IQの遺伝率は77%という統計的事実の意味は知能のバラツキの約8割は遺伝で説明できるということである。知能は遺伝で決まると言い切ることは出来ないが、知能における遺伝の影響は思っているより大きいということである。勿論例外はあるがその例外の事実で約8割という統計的事実を覆すことは出来ない。その説明が統計的知見の基本的見方を教えている印象を持った。よくテレビなどでいろいろな統計的事実に例外を持ち出して反論するのを見かけることがあるが、それは統計というものをよく理解していないということらしい。
発達行動遺伝学の知見としては、知能に対する遺伝の影響は成長につれ大きくなり幼児教育の効果は思春期になるとほぼなくなるということらしい。親などの子育ての努力はあまり効果はないようである。私の経験でも、小学校のとき家庭教師がついていた裕福な家庭の子がそれなりの成績で目立っていたが、中学校になって高校受験のころには進学校への受験も危ういようになっていたのを見ている。なぜ成績が落ちたのか不思議だったが、家庭教育の効果が薄れてしまったからだということで今回理解できた。
また男と女の知能の違いについての事実も挙げられている。男と女では知能が優位な分野に偏りがあり、男は空間把握能力や論理・数学的能力に優れ、女は言語能力や共感力に秀でているということである。また、男女のIQの平均値は同じでも標準偏差は男が大きく、極端に知能の低い人数も男の方がずっと多いということである。すごく優秀な人間に男が目立つし残虐な極悪人も男がほとんどのような印象と合致する。また男の方がバラツキが大きいから平均値近くの人数は女が多くなるから機会均等になって来るに従い大学受験で女が多く受かるようになった傾向も説明できる。男女平等はそういう男女の差を考慮したうえでのはなしでなければいけないようである。テレビ番組でにぎわし役のフェミニズム論者を気取ったそれらしき人物が言う何でも差があるのは男が悪いのだというような言い分に何となく私は違和感を持っていたのだが、その人物の固定観念であることが分かった感じである。
また国際成人力調査(2013)結果の紹介も面白かった。先進国の成人の約半分はかんたんな文章が読めない(日本人のおよそ3分の1は日本語が読めない)。先進国の成人の半分以上は小学校3~4年生の数的思考能力しかない(日本人の3分の1以上が小学校3~4年生の数的思考能力しかない)。先進国の成人のうちパソコンを使った基本的仕事ができるのは20人に1人くらいしかいない(日本人ではパソコンを使った基本的な仕事ができる人は1割以下しかいない、65歳以下の労働力人口のうち3人に1人がそもそもパソコンが使えない)。ということである。
私たちは上記のようなバラツキを生まれつき持つ人間の集団として社会を作っておりそこに生きているのだということになるわけである。そしてその人間の知能や行動ははかなり大きな割合で生まれつきの遺伝で決まる、また男女間にはそのあり方に違いもある、ということなわけである。そういう事実を世間では言ってはいけないことと見做しているようなのだが、それを本にしたのが両著だということらしい。
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屋久島方丈記・偏見ご免のたわごと編:
No.139 遺伝と外的環境半々で性格が決まるとか (2012.12.24)
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