屋久島生活の断片・偏見ご免のたわごと編
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No.96 屋久島(52):ある事件のこと(1) H14.06.17)

4月のある夜暗くなってからのことである。家の前を車が何台か通り、それがいつもと違う様子である。ライトがしきりに点滅しているので窓に映る。見てみるとパトカーのようである。そのほかに捜査員の車かと思える普通の車もいる。最近は屋久島でも物騒なこともあるようなので泥棒でも入ったのかとしばらく様子を見ていたがどうも人の動きが変である。状況が良く分からず困っているようである。

我が家からは50mくらい離れた家の周りでのことで定かに分からない。パトカーの止まっている道路の上の家の人に妻が電話をしてみるが、雨戸を閉めていたのでパトカーが来ているのも知らない様子である。状況を説明し何事だか見て教えてくれるよう依頼したら、その人が外に出て、調べているらしい人と話している。なんとなく遠目に状況が収束しつつあるように見えたところで妻が様子を見に出て行った。

来ていたのはパトカーと地元消防団の車である。近所の一人暮らしの男性から警察に暗くなっても孫が帰って来ない、いなくなったと通報があったとのことである。そこで警察は山狩りのことも考えて消防団と一緒にやってきたらしい。

様子見を頼んだ問題の家の斜め向かいの人が、自分の家の裏の別荘の人が小学校に入るかはいらないかの子供を連れて来ていたが今日帰った、通報した人のところへは子供は来ていないと説明してからだんだんと状況が明らかになってきた。

件の人は60歳半ばで糖尿病で目が悪い。よく目のレーザー治療で都会の病院に行ったりしている、家で自分でインシュリンの注射をしている、インシュリンは屋久島の病院で貰っているがすぐなくなったと貰いにくる、それは目が悪くてこぼしてしまうからだなどといろいろと噂になっている人である。車を自分で運転しているがそのうち事故でも起こすのではと近所では心配している。

そういう話を警察の人などに伝えたら、家の中に注射器やアンプルが転がっていてひょっとして麻薬でおかしくなった事件かとの疑念も晴れたようである。件の人は酒臭かったらしいから酒を飲んで眠り込み目を覚まして、幻覚状態で今まで近所で見かけていた子供を遊びに来た自分の孫と思い込んで、夜暗くなっても家に見当たらないから大変だと警察に通報したらしい。

その後病院や都会に住む家族へ警察から連絡をしたらしい。しばらくしてから都会の実家に行ったらしいというはなしが伝わってきた。その家族とは面識もある様子見をしてくれた近所の人に件の奥さんからかかってきた電話では、ここにきて目覚めたあと状況が分からなくなっていることがあるそうである。今、件の人は都会の病院に入院しているそうだが屋久島に帰りたいとさかんに言っているとのこと。しかし帰るのは難しくなりつつあるらしい。

年取って屋久島で療養の一人暮らしをする。奥さんや家族を都会に置いて一人で住んでいるということは多分そういうことではないかと思われる。具合悪くても屋久島に住みたいという人は珍しい。癒しの島と人が言うのは気の持ちようについて言っていることであって、いくら自然あふれる癒しの屋久島でも病気は進行するのである。

よく聞くのは、年取って体調を悪くして都会に帰ったとか、帰りたいとか言っている人のはなしである。都会の医療事情になれた人には田舎暮らしのまま死を迎えるのは覚悟のいることのようである。総合病院が出来、地元屋久島での治療・入院で時間的、経済的そして治療内容的に効用があるケースが割合大きくなったと思われるが、死を意識する年代にはまだ医療体制や治療の質的側面に不安が残るようである。

No.269 屋久島(145):ある事件のこと(2)    (H20.05.12)


 
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