5月の中ごろ、散歩である場所を通りかかったら顔見知りのひとが大きな木を見上げている。何を見ているのかと聞いてみたら、着生しているランを見ているということである。私はあのあたりと言われて家で言えば2階の屋根のその上くらいあろうかという高さの枝を見上げたのだが、なんとなく木の葉とは異なる葉があるように見えた。そう見えると言うとあれはナゴランという珍しいランだと説明してくれた。
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言われたあたりを撮って拡大してみた・多分これがナゴラン |
かつてはよく見られたのだが、珍しがられてひとが近づける場所ではほとんど採取されてしまいいまはほとんど見られなくなっているので、これは貴重な野生の着生ナゴランだと観察を続けているのだそうである。私を信頼して教えてくれたのではないかと思うので、その場所は秘密にしておくことにする。
私はその日以降、散歩の途中他の木々の上の方を見てナゴランはないかと探すようになってしまった。しかし着生しているのはほとんどがノキシノブのようである。シダの一種で軒下や樹の幹などに生え湿っているわずかな期間だけ光合成を行うがあとはひたすら堪え忍ぶのでその名がついたらしいが、気をつけてみるとあちこちの木に着生している。それに反しナゴランは今に至るまで自分で見つけられないでいる。むかしから着生場所の条件が厳しくなかなか見つからないので珍しがられる存在だったとすれば、いまは好事のひとが見つけられるところは採り尽くしているので、私が見つけることは至難の業なのかもしれない。
私にナゴランを教えてくれたひとは、屋久島にナゴランなくなっていくことを憂えて自分で種子からナゴランを栽培育成しているそうである。芽が出てから花が咲くまでに6年とかいうことだった。花が咲くとよい匂いがするそうである。わが家では友人からもらったデンドロビウムがことし花を付けた。なかなか趣があったのでナゴランの花も見てみたくなった。しかしそのひとに欲しいと言う勇気もなかったので市販の株の購入予約をした。11月ころに入手できる予定である。
ナゴラン(名護蘭)は、1700年代に沖縄本島の名護市の名護岳で発見されたのでその名がついたと言われる亜熱帯性のランで、伊豆七島あたりを北限とする日本の固有種だが、園芸用に採取されたり森林伐採などで九州の一部を除いては絶滅しているということである。今回教えてもらった樹上の着生ナゴランはその九州の一部・屋久島で生き残っているもののようである。
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