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私がまだ若かりしむかし職場で経験したことである。ある事業所のある部署のひとつのグループである業務に従事していたのだが、兼務でその部署の設備等の施設の管理窓口も担当していたことがある。ある時一つの施設で発煙事故が発生し私のところへ連絡が来た。私はすぐ事業所全体の安全担当部署に通報してから現場に直行した。現場室内は先が見えないくらい煙が充満していたが設備の運転を中止したから状況は収まりつつあった。そのなかで確認を進めて行ったら原因は設備の加熱でシール部材が焦げたためだった。
たいしたことにはならなかったが、かけつけた安全担当部署からは確認もせずこんなことで通報してと嫌味を言われた。当該施設運用のグループ長は、離席していてグループ員もその長と連絡が取れず私に連絡を取ってきたのになぜ自分の指示を仰がないで通報したと非難してくる。その長は自分の担当範囲でのミスをなるべく他に知られず処理してしまいたかったということである。安全担当部署はたいしたこともないことで連絡したりしていたずらに人を動かすなということである。めったにない想定外のことをするのが嫌なのである。おおごとになっていたら安全担当部署は連絡せず自分たちで何とかしようとして被害を拡大したとかグループ長は自分の居所を探して時間を費やして処置が遅れたではないかと言うことは目に見えている。皆面倒は嫌なのである。
今回の原発事故で私はこういう経験を思い出したのである。通報の問題と施設の安全承認及び安全行動基準設定は東電と官僚・政府が相俟って行うものである。その役回りを私の場合に当てはめれば、安全担当部署は政府・官僚である。当該グループ長は東電の経営者である。さしずめ私は東電の現場責任者という役回りである。そして安全担当部署は日頃安全を説き導入設備の安全承認をし管理基準のチェックをするが、自分たちが承認した設備での問題発生は避けたいし実際に問題が発生したときの処理作業を厭うのである。グループ長は自分の担当施設の管理責任を外部や上司から問われることを避けたいのである。そして現場責任者は双方から面倒なことを引き起こそうとしたとして非難されるのである。
危険な事態になるかどうかは分からないにしろあらかじめ通報し対応の準備をしてもらい、おおごとにならなければ互いに喜べばよいという訳にはいかないのは、そういうことすること自体マイナス評価になるあるいはそうすると思っている人が多く、その余波を受けたくないからである。おおごととは、当事者の被害・損害は言うに及ばず、当事者以外、他部署、会社、地域、社会に迷惑や損害を与えることである。そういうことよりも自分あるいは仲間内のことを考えてしまう傾向から、発煙くらいでおおさわぎしたくないという言葉と原発事故でパニックを起こすことを恐れてという言葉は同根であるということが分かる。前者では幸いおおごとにならなかったものを通報しただけに終わったが、後者では事故発生時地元に通報せずSPEEDIの予測結果も公表しないでおおごとがもっとおおごとになってしまった。
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