湯泊は平内の西となりの集落である。そこの海岸に湯泊温泉がある。平内海中温泉は満潮のとき海水が流れ込んで来て入りごろになるのとちがい、湯泊まり温泉は時化ていなければ波をかぶることのない波打ち際より少し離れたところにある。私は屋久島に引っ越して来てすぐの頃、湯泊に温泉があるというので行ってみたことがある。県道から湯泊港に行く道に入ってすぐのところに温泉に行く道があって、それが車両進入禁止の道で歩いてしか温泉に行けなかった。温泉も慣れたものにはなんでもないかもしれないが、私にはちょっと遠慮してしまうような手入れされていない感じだった。
今回犬を連れて湯泊温泉の方に行くのは、それ以来はじめてである。県道から湯泊港側に行く道に曲がると、以前の徒歩で行く道に湯泊温泉行きの看板はなく、港に下りていく道なりの方向に向けて湯泊温泉の矢印標識がある。港へ降りていく海沿いの道の途中に温泉に行くきれいな舗装道が護岸壁とともに新設されていて、温泉に近づくとかなり広い駐車場が整備されトイレと更衣室らしきものもある。
駐車場の東端がむかしの徒歩の道と合流して温泉に通じている。通路からすぐの湯船は男女に分けてあるかのように中央に竹垣がある。裸を隠す岩も周辺に置いたりして利用しやすい工夫もしてあり、露天風呂としてきれいに整備されている。平内海中温泉と違って常時入れるからか平日の午後行ったのだが何人もの人が入れ替わり入浴している様子が見えた。むかしはなかったが、整備されてからか100円入れてと協力金をいれる箱がおいてあって、それは平内海中温泉と同じである。海岸の露天風呂としてこれから平内海中温泉とならんで観光客を呼ぶかもしれない。
また奥に続く細い通路があって、その先の磯の中に人目に付きにくい二つ目の露天風呂がある。温泉に着いてすぐ、人気の少ないときにどうなっているかと細い通路の途中まで行ったら、若い男女が湯船の中で抱き合ってくっついているのが見えてきた。しばし眺めてから気づかれぬよう引き返したが、こういう少しなまめいたことに遭遇することができるのも、この温泉ならではかもしれない。丸見えの平内海中温泉ではこうはいかない。
温泉の西側の海岸は波打ち際が磯だがすぐ小石混じりの大粒の砂いっぱいのちょっとした浜になっている。そこが犬を遊ばせるにちょうど良い。犬は放されてもそんなに遠くに行かない。流れ着いたプラスチックの細長い浮きをくわえて砂に埋めては掘り出して遊ぶことに熱中していた。泳がせてみようと思ってその浮きを取り上げ波打ち際に投げたら、勢いよく海に飛びこんで行き深みに落ちてしまった。初めはきょとんとして浮いていたが、それからあわてて泳ぎだしすぐ岸に上がった。それが生まれて初めてのレオの海水浴であった。