当初は年をとったら鈍くなって周囲にも注意が行き届かぬようになるからマークを着けて周りに注意してもらおうという善意でマーク義務化を決めたようでもあるが、マークを着ける方にとっては交通事故を起こす元凶という看板を着けて走るようで気色悪かったのではないかと思われる。そこで高齢ドライバーが本当に交通事故を起こす元凶と言えるのか、それがただの予断の産物だったのか気になって調べてみた。
現行の75歳以上で「もみじマーク」装着を強制する道交法を施行するに当たって、警察庁は以下のようにその理由を説明していたようである。
1)75歳以上の高齢免許保有者数の増加免許保有者数が約258万人(H18)で10年前の約2.8倍になっている。
2)75歳以上の運転者で死亡事故発生率が高い。
3)75歳以上の第1当事者死亡事故件数は(10年前比)74歳以下の約2.3倍(H17:約2.7倍)。
これが本当かなという気になって、なにかデータがないかとネットでさっと検索してみたらどこかで公表したらしいpdf資料がいくつか出て来たが、ちょっと見程度の気持ちで検索をし始めたのでデータの保存もせず一つを見て次を探してとやっているうちに、先のものをもう一度見たくなってもどう検索したか忘れていてなかなか資料間の整合性が取れないことになってしまった。以下適当にデータのつじつまあわせをしながらの考察である。
まず高齢の運転免許保有者が増えたという指摘についてだが、平成8年の70歳以上の免許保有者は245.6万人、平成18年で572.5万人とある。確かに増えているがこれは少子高齢化問題と理由は似たようなものだと思われる。免許保有者が増えたら事故発生率は同じでもその年代の事故件数が増えるのは当然のことである。ただ発生年代がシフトしたに過ぎないと見てよいと思われる。
問題にするなら警察庁指摘のように高齢者の事故発生率が増大しているかどうかである。ところが、その年代の免許保有者に対する同年代の事故第一当事者の比率のデータがあって、それによると平成9年は65歳〜69歳で0.8424%、70〜74歳で0.8346%、75歳以上で0.9419%である。平成19年では65歳〜69歳で0.8762%、70〜74歳で0.9181%、75歳以上で1.0374%である。10年前に比べ増え方が顕著とまではいかないようである。
他に第一当事者年齢枠別事故件数(平成17年)というデータがあったので、先にメモしてあった平成18年の年齢枠別免許保有者のデータを使っても一年違いならたいした違いはなかろうと年齢枠別の事故発生率を出してみた。
事故の発生率が多いのは20歳未満である。次いで20〜29歳である。その他の年齢枠では全体での事故発生率より低くその値も同等レベルである。70歳以上で事故が多そうだというのは年寄りに対する先入観・固定観念によるものではないかという感じがする。70歳以上の免許保有者の事故発生率は下の年代と変わらないのである。70歳以上では免許保有者の数は亡くなることに加え自発的に運転しなくなる人も出るからか少なくなっている。その結果当然だが事故件数も少ない。運転者事故防止のための第一優先規制ターゲット世代とは見えない。
次いで75歳以上の運転者で死亡事故発生率が高いとの警察庁の指摘であるが、私のちょっと見のネット検索では75歳以上の免許保有者が運転して事故を起こし当人が死亡した事故のデータが見つからなかった。そういうデータはないらしいという記事がある物理研究者という人の2006年のブログにあって、そこには次のようなことが書いてあった。
「アメリカの分析では、高齢者はスピードオーバーや飲酒運転が少ないので、重大事故は少ないのではないかと予想される。ただ、事故に遭遇した場合高齢者は、他の年齢層に比べて死亡の確率が2〜3倍大きいので死亡事故に限定すると高齢者の事故率は際立って大きく出ると予想される。しかしこれは、他の運転者が運転する車に同乗したり、タクシーや、バスの場合に事故に巻き込まれたときも同様であるから。高齢運転が社会的に危険ということにはならない。」
ということで、言いがかりをつけるような高齢者限定のもみじマーク義務化は取り下げが当然だという感じである。30歳未満の免許保有者は明らかに事故発生率が高いが、初心者が多いとか経験が少ないことも影響しているのかもしれない。もみじマークよりは若葉マークの方が説得性はある気がするが、こちらもそのうち見直し検討対象にあがってくるかもしれない。若葉マークが設定されてから大分経つが効果が検証されているのか気になるところである。
補足: 改正案の状況 (H21.04.18)
4月17日に改正案が衆議院を通過したという報道があったので、今国会で成立することになると思われる。