屋久島生活の断片・偏見ご免のたわごと編
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No.238 屋久島(131):経済波及効果のこと  H19.02.26)

東国原知事が当選直後の取材や出演でTVに露出した経済波及効果(TVCM費換算)は160億円余と言われたが、広告費が売り上げの10%としたら宮崎県のものが1600億円売れないとCMにそれほどの効果はないことになる。実際はそれを検証できない。またただでCMを打てたからと言って宮崎県が計上していた広報費用を実際160億円節約でき他の施策に160億円振り向ける余裕が出たというわけでもない。このように経済波及効果云々には統計で嘘をつくのと同じように多分に実体のないまやかしみたいなところもある。以上、以下のはなしにはそういう面もあるという言い訳である。

さて、最近屋久町で移住希望者相談窓口が開設されたそうである。多分昨年あった団塊世代誘致促進の住民参加の検討会議結果を受けてのことだと思われる。団塊世代誘致策を行政が推進しようというとき大体は経済波及効果があることを理由に議会に諮ったりすることが多いようである。屋久町では議会や会議参加者には経済波及効果の説明があったかも知れないが聞き及んでいないので、面白半分に考察してみた。

(注: 以下、(参考: ・・・) あるいは [・・・・] は参考にした情報で、長崎県については「シンクながさき」が長崎県について、北海道については慶応大学のある教授が北海道について、それぞれ経済波及効果の試算を公表した中にあるものである。私の考察に都合のよい部分のみ取り出している。互いの整合性を問われると困る。)

まず屋久町に何人移住してくるかということである。国立社会保障・人口問題研究所の「都道府県の将来推計人口」に基づき、大和総研が団塊の世代を含む55〜59歳層の2015年までの分布の変化を調べた結果、増加する都道府県全体で上昇率は0.9%。県境を越えるのは計9万人にとどまるということである。
(参考: 長崎県の例では2002年に県外から移住してきた60歳の人口およそ300人の実績から、年間およそ300人が県外から長崎県へ移住してくるとして試算している。)

つまり今後10年で9万人、1年当たり9000人、1県あたり約200人、夫婦2人とすると100世帯が県境を越え移住してくると言えそう。それが鹿児島県に該当するとして、その10%を屋久島が吸収するとすれば、年に10世帯(20人)の移住者が見込まれる。

次に移住者の一世帯当たり出費見積もりであるが、北海道の試算条件(不動産取得費除く)を流用する。
一世帯当たり不動産取得費: 2000万円(この値は私の仮定値)
[一世帯当たり移住一時消費(物品購入等を想定):約840万円]
[一世帯当たりの年間生活消費支出: 60代 約260万円(70代 約220万円)]
[一人当たり年間個人負担医療費: 60代 約33万円(70代以降 約62万円)]
[一人当たり年間個人負担介護保険料: 60代 約1.7万円(70代以降 約18.8万円)]

以上から、移住世帯の出費を見積もる。初年度は、 
不動産取得費 2億円(2000万円X10世帯)
一時消費  8400万円(840万円X10世帯)
生活費等 3300万円((290万円+(33万円+1.7万円)X2人)X10世帯)

計 3億1700万円

次年度は不動産取得費・一時消費は同じだから、新しく移住してくる世帯の生活費等3300万円が前年度に上積みされる。
2年目 3億5000万円
3年目 3億8300万円 という具合になる。
10年目は 6億1400万円

以上、移住者の出費の大半は不動産等取得費で、不動産会社(たまに個人)との土地の売買費用と工務店・電気店などへの家屋建築にかかわる費用である。規模は毎年3億円弱である。生活費等については、初年度3300万円、毎年3300万円づつ増えて行き10年目には3億3000万円となる。

これらが順次50%づつ何回転かするとして約2倍の生産活動になるとすれば、初年度6億円くらいの生産活動に相当し屋久町の総生産を3%くらい押し上げることになる(屋久町平成14年の総生産約190億円)。誘致活動で移住者が2倍になったとしたら、12億円くらいの生産活動で総生産を6%くらい押し上げることになる。10年目には総生産を12億円くらい、誘致活動で移住者が2倍になったら24億円くらい押し上げることになる。
(注: 約2倍=1+0.5+0.25+0.125+0.0625)

しかし地元でその恩恵を100%受けるわけではない。地元への経済波及効果を考えてみる。地元での経済波及効果ということになれば、上記のお金の実質何割かが地元に落ち、その何割かがまた地元で回り、それが順次回転する、それらの総計ということになる。実際移住者が使うお金のうち50%が地元に落ちるとして地元でそれが年5回転するとすれば、毎年ほぼ移住者が使ったお金の約1倍になる。初年度3億1700万円、10年目は6億1400万円、誘致活動で移住者が2倍になったとしたらそれぞれ6億3400万円、12億2800万円ということになる。その恩恵をうけるのは主に不動産業者、工務店、電気店、食品スーパーとその関係者ではないかと思われる。
(注: 約1倍=0.5+0.25+0.125+0.0625+0.03125)

次に移住者一人でどのくらいの経済波及効果があるかということだが、地元での経済波及効果は毎年ほぼ移住者が使ったお金と同額くらいになるという前提で、期間を10年で区切れば一世帯(二人)で使うお金の総計6140万円((不動産取得費2000万円)+(一時消費840万円)+(生活費等330万円X10年))ということになる。個人消費や医療・介護支出などに関連する効果は(生活費等330万円X10年)の3300万円ということになる。 一人平均総計3070万円、個人消費等は1150万円ということになる。
(参考: 長崎県では、経済効果試算を個人消費や医療・介護支出などに関連する効果は1世帯当たり30年間で1億6000万円の条件でしている。(注: 10年間ではその三分の一約5300万円となるが、これは全県への波及効果だから居住する町での効果はその何割かということになる。)

報道などでは移住者一人の経済波及効果は1億円になるというはなしもあるようだが、波及範囲を広域化して考えているとか対象期間を長期に考えているから大きい額になっていると思われる。極端なことを言えば、確かに見込めそうなお金は移住者が落とす元金で、例えばそれを受け取った側が利益を全部貯金してしまえば以後のお金の回転はゼロということだってあり得る。政策的試算は大体政策採用側に有利になっているらしいから割り引いて見た方がよい気がする。

町の財政効果については夫婦世帯で純財政効果額を長崎県の例から流用し年間34万2290円とすると、初年度は350万円くらい、10年目で3500万円ということである。誘致活動で移住者が2倍になるとするとしても各々700万円、7000万円で、これでも屋久町の実質単年度収支1億5000万円の赤字(平成16年の赤字。黒字の年もあるがその額は赤字に比べ少ない)を解消するものではないようである。財政的に画期的な効果は望めないのではないかと思われる。
(参考: 長崎県の例だが、移住がもたらす自治体財政への影響については人口10万人規模の諫早市への移住を想定した場合、65〜69歳の夫婦世帯で、市町への純財政効果額は年間34万2290円になると試算している。)

以上の私の面白半分の考察では屋久町の今の状況に変化がない、例えば人口構成老齢化などの影響はないものとしてみているが、多分実際は悲観的な方向に変化していくと思われる。それは団塊世代誘致を言う先行き不安な自治体ではどこも同じではないかと思われる。団塊世代誘致を言う自治体は、本当は前途に可能性のある若い世代の 定着・移住促進を図りたいのだが、そのための知恵がなかなか浮かばず次善の策が団塊世代誘致ということなのかもしれないない。


 
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