屋久島生活の断片・偏見ご免のたわごと編
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No.195 ごまかしのこと  H17.12.05)

最近いくつものマンションやホテルで耐震強度不足が発覚した。構造計算を請け負った建築士が建設費が安くなるようにと鉄筋やコンクリを少なくした強度不足の仕様で大丈夫というような虚偽の計算書を作成し、検査機関もそれを見過ごして通してしまったから、耐震強度の低い建物が建てられてしまったということである。ディベロッパーや建設業者は建築士に圧力をかけていないと言っている。設計事務所の所長は自殺したらしいから何がしかの関与はありそうである。

建築士が立て込んだ計算作業をこなすために作業をはしょったという報もあるが、それにしては数が多すぎる感もある。私が思うに構造計算を請け負う建築士は、安く建設できる強度不足の構造でよいとごまかしても、浮いた建築費で自分が得をするわけではない。得をするのは安く造って高く売るディベロッパーとか見積もりより安く仕上げれば儲かる建設業者とか見積もり建設費の何%というように契約している関係業者(もしかしたら設計事務所はこれかもしれない)がいるとすればその業者とかということになる。要は得をするものがかんでいなければおかしいというのが私の見方である。

それはさておいて、ビジネスにおけるごまかしのことである。私もごまかしをしたことはある。しかし私のごまかしのほとんどは表に出た不具合の言い訳にかこつけて、まだ表に出ていない不具合をも対策してしまうというようなことである。ごまかしで成果が損なわれるようなことはしない。しかし後日にその言い訳に関連する他の不具合が発生するとつじつま合わせに苦労する。

大体のビジネスでのごまかしというのはそういうものである。あるいは法の隙を突いた事業をするとか製品をつくるとかいうのもある。しかし、ごまかしくさいが事業や製品に欠陥があるわけではない。普通の真っ当なビジネスでは社会や人々の安全や福祉を脅かすようなことをするつもりで、ごまかしをするものは殆どいないと思われる。

しかし、最終成果に問題なければとごまかしをする気持ちは多分誰にでもある。そういうごまかしで苦境を逃れてきた人間も多いのではないかと思われる。そういう中にたまたま社会や人々の安全や福祉を脅かすようなごまかしをする輩が出て来る。それが高じて会社ぐるみであるいは業界ぐるみで社会や人々の安全や福祉を脅かすごまかしをするようになる。ある会社のクレーム隠しとか、公共工事の談合とか、見渡せばいくらでもある。

私も含め人は大体、「嘘も方便」には肯定的な傾向を持っている。そして殆どの人は問題を起こさない範囲で嘘をつく。だが企業や業界でそういう意識が蔓延していると社会や人々の安全や福祉を脅かすごまかしに不感症になる。いま人ごとのように構造計算のごまかしを評している自分たちは幸いにして、その立場や環境が致命的なごまかしをしなくてよかっただけかもしれないという気もするのである。


補足: 検査のこと (H17.12.05)

イーホームズなどの建築確認の検査会社が、偽装を見抜けないことについての感想である。

検査会社は施主や建設業者、設計者などが不法・不安全な建物を建てないようにチェックする機関だとすれば、設計構造の完全検査は設計と同じような手順で構造計算しなければならないから難しいとか、国土交通省認定の構造設計プログラムを使用していれば細かい検査はしないとかいう言い訳は通用しないのではないかと思われる。施主や建設業者、設計者などが悪さをするかもしれないからチェックするのだから、悪さをする手法を常に把握しそれに対抗できる手段を持ってこそ検査会社である。

検査会社はPCのウィルス対策機能のようなものである。悪さをするものは手を変え品を変えて悪さを仕掛けてくる。それを防除するのが役目である。それがまったく対策ソフトやパターンファイルを備えていないような印象を受ける。

私が構造設計計算書を検査するなら、申請者の計算プロセスに一切影響されないで検証できるように、申請された設計要求諸元と構造設計結果を入力し要求に合った設計になっているか検証するプログラムを用意しておく。スーパーコンピューターを使うくらいの意気込みでやる。

そういう手段を用意しないで、作業が大変だからと行政と取り決めたチェックポイントだけチェックするのなら、そのポイント部分を偽装するだけで簡単に検査をパスできることになる。また施主や建設業者、設計者などを信頼して検査しているなどと言うにいたっては、検査会社の存在意義を自ら否定しているようなものである。

補足: 構造計算ソフトに関する疑問のこと  (H17.12.22)

今日のあるTVのニュースショウ番組で、PCに組み込んだSS2という構造計算ソフトで耐震強度係数みたいなものを入力しなおす手口の実演をやっていた。そのソフトは取り扱いやすく、かつすばやく計算するようである。

途中手を加えず一貫計算すると印刷結果にその証明が出力されるので、個別に計算したものをつなぎ合わせる悪さは防ぐようになっていると以前の報道にあったが、設計データや計算条件データを事前に入力し一貫計算するとその結果は証明付で出力されるらしい。そして耐震強度係数みたいなものは事前入力の計算条件データだから、ごまかして入力しても何の問題もなく正常な計算結果として出力されるらしい。

実演解説した専門家は、構造計算ソフトはツールなのだから、非常識な設定条件でも計算してその条件下での答えを出力する。ソフトには問題ないということを言っていた。またVTRに出てきたある検査会社の人は偽装計算書は丹念に数字を追っていけば偽装を見つけられるが時間はかかると言っていた。

私の構造計算ソフトに関する疑問である。プログラム自体の改ざんは難しい。だから設定条件などの入力データを改ざんして偽装するという前提での話である。検査確認用に各計算ステップで使用した入力データを一貫計算証明とともに出力するようになっていないのかという疑問である。

計算プログラムは難しくても国土交通省認定で計算結果自体は合理的である。出力用紙の偽装差し替え対策もしてあるに違いない。そしてプログラムの改ざんはできないとすれば、検査機関がチェックするのは入力データに問題がないかということで十分である。あとは結果どおり図面化されているか見ればよい。構造計算ソフトが各計算ステップで使用した入力データを保証付で出力しないなら、構造計算ソフトにも不備があるという気がする。


 
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