屋久島生活の断片・偏見ご免のたわごと編
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No.79  スパイにされかけたこと H13.11.26)

私がある会社に勤めていたとき、多分スパイにされかけたことがある。三十数年のむかしの事である。

私の担当業務でアメリカからある試験機器を導入することになった。業界で初めての導入なので商社もかなり熱心に設置作業や技術情報その他のサポート体制を取ってくれた。その仕事を通じて商社の担当課長と親しくなり、仕事が終わってから一緒に飲みに行くようにもなった。彼は作業完了時に一席設けて参画者の慰労会をもようしてくれたりもした。

私もうまく導入できたうれしさから感謝の意を込めて家に招待して飲み食いしたこともある。そうこうして互いにかなり親密な関係になったと思われるころから、会って話すたびに私の担当する仕事の話などするようになった。一般論的な話だったから自分の知識などを披露する気持ちよさからいろいろ技術的話しをする一方で関連業界の情報などを教えてくれるので有益な付き合いだと会うのを楽しみにしていた。

付き合いがかなり進んで来たころ、商売で知識がなくて困っている、教えてくれ、と言うので一般的なことなら自分の勉強にもなるから教えたりするようになっていった。そのうち御社ではこのような事はどうしようとしているか、というような事を聞かれるようになった。初めのころは私の担当ではないからわからないなどと普通の会話のつもりで対応していた。

そういうことが続いたある日、会社に電話がかかってきた。各社しのぎを削っている開発事項に話が及び調べて教えてくれないかと言う。そういうことは知っていても教えられない、会社の秘密に属するときつく言ったところ、分かりましたと言ってすぐ電話を切ったと思ったら、夕刻手土産を持って会社に訪ねてきてた。そして申し訳ありませんでしたと言ってそそくさと帰って行った。それ以来一切接触がなくなって今に至っている。

私は会社の秘密に話が及んだとき、やっとスパイにされかけていたのだと気が付いたのである。商社というのはいろんな会社に出入りする。どこかの会社と商談があり、それに絡めて同業他社の動向に関する情報を求められたのかもしれない。戦前の話などでは外国駐在の商社マンはスパイ的要素もあったかに聞く。危うく私はスパイの手先になるのを逃れたのかもしれないと思っている。


 
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